優劣のない世界  The world with no superiority or inferiority


かつてない規模の台風が来ると予報があり、不要不急の外出は控えるように呼びかけがされ、電車は計画運休になり、殆どのお店が休業となった。


その日ばかりは、いつも忙しそうに充実した日々をSNSにアップしている人も、私のように普段から家にこもっている人も、分け隔てなく家の中でおとなしく台風が無事過ぎ去ってくれることを願っていたのではないだろうか。


不謹慎かもしれないが私は少しの高揚感を抱いた。


そして昔読んだ三島由紀夫の「金閣寺」の主人公のことを思い出した。金閣の美しさに強い憧れと執着心を持った学僧の話だ。戦争下では自分も金閣も空襲の火で焼かれるかもしれないという同じ禍い・同じ運命の下にいることに心酔していたが、終戦により同じ世界に住んでいるという夢想が崩れ、自分と金閣との関係が絶たれたことに絶望する。


当時は理解できなかったその思考回路と、気づけば私は同じような思考をたどっていた。


共通の大きな恐怖で照らされた世界の下では、個体差による優劣や比較をする行為の価値が薄れる。その状況を私は噛み締め、この瞬間の思考を形にしたいと考えた。


台風が近づいている不安を感じながら、部屋の中の様々なものを撮影した。その世界の下では、被写体の差は差でしかなく、優劣は存在しない。


2019.10

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