影をまとう


私達の人生には常に影がまとわりついている。


影は影の中に在るものを侵食していき、覆い重なってどんどん大きくなっていった。

まとわりつく影から逃れようと彷徨い、「いつか解放される」そう望みながらも諦めが側に居座り続けている。

影に依存し、影しか見えない状態のまま歳だけを重ねた。


『光を与えられない人間はどうすればよいのだろうか』


私達はそれぞれの痛みと向き合い、そのルーツを探し、なぜ影をまとうようになったのか、その成り立ちを辿ることにした。


影と光、その本質を見つめていく中で、私達は無意識のうちに影ばかりを見ていることに気が付いた。

影と光は表裏一体であるのに、光の存在を認識していなかった。

私達にとって光を見つけることはそれほどまでに難しいものだった。

そのことに気が付いた頃には何も残っていなかった。


しかし、影の中には光が存在する。

その光の存在を思い出した私達は、これからは影と光が混在する中で生きていく。


2024.02

梅がもう咲き狂っている

春が来るのだろう

こんなに美しいのに

冬の終わりを恐れている私には

その美しさが不気味で残酷にも感じる

小学生のとき、クラスメイトも先生も幼稚で陰険で苦手だった

悲しいよりもばかばかしくなり地元の人たちが嫌いになった

周囲を白けた目で見ている冷めた子供だった

当時は毎朝の学校への道のりが長く辛く感じた

改めて歩くと10分もかからない

全てを断ち切り大人になった今は何も怖くない

地元の駅はこんな地から逃げ出して東京へ連れていってくれるための入り口だった

私のことは放っておいて

干渉されたくない

群れたくない

どうか構わないで

自由でいさせて

何度も行っている大好きな場所でも上手く旅に順応できていないと感じることがある

旅をたくさんしても私に時々現れるこの現象

生き甲斐のはずの旅が私を拒絶している?

それでも私は旅をやめない

旅をあきらめない

暗闇から窓の光を見上げて、私を再び受け入れてくれるのを待っている

変わっているとまた言われた

変わっているけど特別という意味ではなかった

だから私の話なんて誰も聞かない

それならすぐにわかりあうことを諦めたい

私は欠陥だらけの人間で

人が普通にしていることができなくて

それをこれ以上誰かに知られたくないし見られたくない

空、山、木、池、鳥、草

美しい線が調和して美しい景色を描いていて

目立とうとする主役はいない

この世界に主役なんていない

思っているよりも誰も自分のことをちゃんと見てはいない

だったらもっと力を抜いて景色の一部として生きてもいいのかもしれない

きらきらした写真が似合わない

明るい写真が似合わない

美しい光を私の写真として出す意味がない

そのことに気づいてしまった

私が楽しい気持ちで撮った写真はつまらないと言われ

幸せが似合わないと言われたこともあった

そういった呪いにとらわれているのかもしれない

そんなの蹴散らしたい

でも何を持って蹴散らせばいいのかわからない

私は私のやり方を信じてすすむしかない

気が付くと渋谷に来ている

この街に身を委ねると人混みと喧騒が私の孤独な気持ちを紛らわせてくれる

そして虚無感の入り混じった刺激を与えてくれる

私には明日幸せが控えている

こうなると確信していた

だからすべてがきらきらして見えて

そしてとてもそわそわしている

今ならなんでも許せるしなんだってしてあげられる

この街でひとり暮らしを始めて8年

時々死ぬほど寂しいことはあるけれど基本的には性に合っている

憧れの東京を日常にしてくれた街

まだまだここにいたい

私の写真の中に私はいない

自分の”側”から解放されて、しかくの中に理想の自分を演出することができる

しかくの外側が本当はどうなってるか知られることがない

だから写真が好きだ

生きづらい人生の中で写真という表現に出合えてよかった

3ヶ月ぶりに旅に出た

最近の不調は旅が足りていなかったせいなのかもしれない

旅は煮詰まった私に新たな発見を必ず与えてくれる

日常では眠っている感覚を研ぎ澄ませてくれる

旅に出ない私の写真は多分なんてことはない

でも旅に出れば、旅が私を無敵にしてくれる

私はひとりでいるべきなんだ

誰かといるなんて贅沢なんだ

人に誤解されて不快にさせることしかできない

だから私の前に現れた人は季節のように当たり前に去っていく

冬は寒いから身を寄せ合うけれど春になればいなくなるだろう

必要とされたかったのに特別になりたかったのに

花びらを落としはじめた寒椿が冬の終わりを知らせる

冬の強い日差しはもうすぐ春の影に飲み込まれ覆いつくされる

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